「生きているうちに一度は日本一高い山に登りたい」。子どもの頃から憧れていた富士山への想いは、年々強くなっていました。普段は遠くから眺めるだけの存在ですが、自分の足で頂上に立つという経験はまったく別物です。漫画『アイシールド21』の「日本一高い場所での挑戦」に触発されたこともあり、また山小屋での宿泊や夜の富士山の景色を体験したいという個人的な好奇心も重なりました。
今回はソロ登山で挑戦しました。友達が少なく、登山仲間がほとんどいなかったこと、平日に登り始めたためツアー日程に合わせられなかったこと、そして初心者である自分には自由に休憩を入れられるソロ登山の方が向いていました。登山歴は高尾山、大山、筑波山などが中心で、富士山はまさに「挑戦の目標」。5合目に到着したときには、頂上までの距離や高度差が視覚的に確認でき、その大きさに少し圧倒されました。
登る前の富士山のイメージは、日本の象徴であり、竹取物語で不死の薬を焼いた神秘の山。普段は遠くから眺めるだけでしたが、自分の足で登るとなると、想像以上のスケールと厳しさが待っていました。
富士山登山は初心者でも大丈夫?
登山前の準備は体力面、装備面、情報収集の三つに分かれます。体力面では特別なトレーニングは行わず、月一回1500m級の山に登ることで体を山に慣らしました。これが富士山登山への最初のステップです。最初は「何とかなるだろう」と楽観していましたが、5合目に到着して山の大きさを目にした瞬間、やはり甘くないことを実感しました。
装備は、富士山登頂経験者からアドバイスを受け、防寒・防水を重視。特に富士山5合目と山頂では気温差が大きく、荷物の中で防寒着・防水着をうまくまとめました。情報収集はYouTubeや登山ブログを参考にし、天気予報や山小屋の混雑情報も事前に確認しました。
- リュック45L
- 水4L(お湯を入れてカップ麺用)
- 補食(甘い物中心)
- レインコート
- 日焼け止め
- 体拭きシート
- 着替え2日分
- バッテリー
特に役立ったものは、山小屋でWi-Fiが使えたため情報交換に便利なバッテリー、夜間でも暖を取れるユニクロ極暖フォーム、そしてお湯を持参した水筒。山で食べるカップ麺の美味しさは格別でした。
改善点・不要だったものは帽子(快晴時の日焼け対策が不足)、ストック(傾斜や岩場であれば絶対便利)、ヘッドライト(夜間登山には必須でした)。
装備選びのポイントは、台風情報を意識し、防水・防寒対策を最優先すること。荷物の重さは登山に影響するため慎重に選びました。
1日目(8月1日) 富士スカイライン~5合目~富士一館
富士スカイラインの感想
新宿からバスで富士スバルラインを通り、5合目へ向かいました。バスは約7割が外国人で、登山者の国際色豊かさに驚きました。新宿からバス停まで20分程度かかりますが、バスタ新宿内のNewDaysで必要な補食を揃えておくと便利です。5合目の物価は街より2~3倍高いため、事前に準備しておくのが安心です。
5合目到着
合目に到着すると、雲がすぐ近くにあり、風が強く天気が変わりやすいことを実感。入山門では装備チェックがあり、外国人観光客も多く賑やかでした。馬小屋もあり、下山用の馬の準備を見ることができます。
登山道は霧がかかり視界がほとんどなく、6~7合目の坂道は永遠に続くように感じました。しかし、ジグザグに登ると楽に登れることを発見。ツアー客のペースに合わせる必要はなく、ソロ登山ならではの自由さを楽しめました。
富士一館到着
7合目の富士一館に15:00に到着。寝床は1畳ほどのスペースに寝袋と毛布があり、夕食は唐揚げカレーとブドウゼリー。温かい食事に感動しました。夜は雨が降ったものの、山梨方面の夜景が美しく、空気は冬並みに澄んでいました。山小屋での快適さは予想以上で、充電用の延長コードをモバイルバッテリーと交互に使うなど工夫しました。夜の気温は10度前後でしたが、ユニクロ極暖フォームと寝袋で快適に眠れました。
2日目(8月2日) ご来光~山頂アタック
ご来光
朝4:30、まだ暗い山小屋の外に出ると、ひんやりとした空気が体を包みました。夜明け前の空は星がほとんど見えず、月明かりで岩場が薄く照らされる程度。周囲の登山者も静かで、低い声で準備をしているのが聞こえました。
太陽が顔を出すと、空気が澄んでいて河口湖を優しく照らし、淡いオレンジ色の光が山肌に広がります。霧の合間から見える景色は幻想的でありながら暖かみがあり、心が自然に落ち着きました。しかし出発時間が迫っているため、感慨に浸る暇もほとんどなく、カメラで数枚写真を撮った後すぐに登頂に向かいます。
山頂までのルート(7合目~本8合目)
7合目から8合目までは岩場が中心で、足を慎重に置きながらボルダリングのように登ります。空気が薄くなり、呼吸が浅く早くなるのを感じ、登るごとに心拍数が上がります。遠回りでも足を高く上げないルートを意識することで、体力消耗を最小限に抑えました。
途中、ジグザグに登るツアー客のペースを見て真似すると、意外と楽に登れることに気づきました。8合目付近に到着すると、山小屋ごとに短い休憩を入れながら水分補給。休憩中に周囲の登山者と軽く会話することで、疲労感が和らぎ、精神的にも支えられます。
本8合目~9合目
本8合目から9合目はトイレがほとんどなく、膀胱との戦いが続きます。周囲の登山者から「あと少しだよ」と声をかけられるたびに、自然と体力が回復する気がしました。疲労感はあるものの、酸素が薄くなる8合目以降は、5分おきの小休憩で慎重に登ります。
9合目手前では、岩場の直線が最もきついポイント。10m進むだけでも息が切れ、周囲も同じく渋滞。小学生やランナーがスイスイ登っていく姿を見て驚きつつ、自分も負けじとゆっくりと進みます。大学生グループの「ファイト!一発!」の掛け声に思わず笑ってしまうなど、緊張と疲労の中にあるちょっとした楽しみもありました。
体調・疲労感
8合目~9合目までは登るごとに酸素が薄くなるのを実感し、足取りは重くなります。頻繁に5分休憩を取りつつ、水分補給と塩分補給も欠かせません。直線岩場を越えると心拍がピークに達し、疲労感も最大に。周囲の登山者との会話や声援が、まさに精神的な支えとなりました。
山頂到着
頂上に到着した瞬間は、まず体の疲労からの解放を強く感じました。達成感はもちろんありますが、登山時間が長かった分、体の疲れと安心感が勝っていたのも事実です。友達と登るとまた違った楽しさや達成感があるのだろうなと想像しながら、ソロ登山の独特の静けさと自由を楽しみました。
山頂の気温は15℃ほどで快晴。風も穏やかで、昼寝をしたくなるような快適さです。景色は360度パノラマで、6合目で見えていた青緑色の重機も遠くに小さく見えます。写真を撮りつつ、登頂手形・焼き印を押してもらい、神社で参拝も済ませました。
山頂での過ごし方
滞在時間は20分ほど。水分補給、軽食、トイレ、下山の準備を行います。鹿の骨探しや景色の写真撮影も楽しみましたが、時間が限られていたため、じっくりはできませんでした。周囲の登山者も同様に、短時間で次の行動に移る人が多く、山頂は達成感と次への準備が交錯する空間です。
下山と振り返り
下山道の様子
下山は登頂時以上に体力と集中力を使います。登山道は火山灰や砂が多く、滑りやすいため一歩一歩慎重に足を置く必要があります。靴の中に砂が入り込むと、靴下と足の摩擦で足裏が痛くなるため、登山靴専用のゲイターや靴の上から巻くカバーがあればもっと快適だったと痛感しました。
傾斜も急で、膝や足首への負担は大きく、ストックがあれば安定してスピードを上げられます。休憩ポイントが少ないため、トイレや水分補給は貴重です。下山途中で馬小屋を見かけましたが、今回は自力で下山することを優先しました。
景色は登山道とは異なり、緑が少なく殺風景ですが、砂地を滑るように下る感覚はスリルもあり、スキーやソリのように一気に降りられたら楽しいだろうな、と想像しながら歩きました。途中、他の登山者との挨拶や励ましが精神的に支えになり、疲労感を和らげてくれました。
体力・精神的にきつかった点
下山は膝や足の疲労が一番きつく、特に砂地でブレーキをかけながら降りると靴底がすり減り、足裏の皮がむけるなど痛みが増します。集中力を切らすと滑落のリスクもあるため、最後まで緊張感を保つ必要がありました。
また、時間に追われていたためスピードを意識せざるを得ず、疲労との戦いが続きました。下山の道中で「まだ続くのか」と思う瞬間もありましたが、周囲の登山者との声かけや励ましで精神的に支えられ、無事下山することができました。
登山全体を振り返って
登山全体で最も嬉しかった瞬間は、やはり登頂です。6合目から写真を撮りながら徐々に目線が高くなる体験や、登り切ったときの景色は、長い時間をかけた挑戦の成果を実感させてくれました。
一方で最も辛かった瞬間は、頂上手前の直線岩場。酸素が薄く体力の限界を迎え、息も足も上がらない中で、周囲の登山者と励まし合いながら進んだ瞬間です。ソロ登山でしたが、周囲の温かさが心に残りました。
初心者ソロ登山で得られた学び
- 休憩を十分に取ることで、自分のペースで登れることの重要性
- ソロでも孤独を感じない不思議な感覚
- 山慣れしていないと富士山は想像以上に厳しい
- 水分補給・塩分補給のタイミングが成功の鍵
- 装備選び(酸素缶、ストック、日焼け止め、帽子)は安全と快適さに直結
次回登山への改善点
今回の反省点は装備面の準備不足。特に日焼け対策は必須で、次回は帽子・サングラス・日焼け止めをフル装備します。また、登山用ストックや酸素缶も携行し、下山時の安全性と体力温存に活かしたいと考えています。
初心者へのアドバイス
- 山慣れ:2000m級の山に何度か登って経験を積むこと
- 山小屋の予約:山開き3か月前には予約必須
- 下山バス:時間に余裕をもって遅めの時間を予約
- 下山後の温泉:河口湖周辺の温泉で疲れを癒すプランを事前に計画
下山後の充実感と余韻
下山後、温泉に浸かる瞬間は、登山中の疲労が一気に解放されます。体の痛みや足裏の疲労も、水に浸かることで和らぎ、達成感を噛み締めながら心地よい余韻に浸れました。
今回の登山で感じたのは、富士山は単なる高い山ではなく、登山者に自然との対話、周囲との関わり、自己の限界への挑戦を提供してくれる場所だということです。ソロ登山でも仲間がいるような温かさを感じ、登山を通じて新たな視点や気づきを得られました。
富士山登山の総括
初心者でも、しっかり準備をすればソロ登山は十分可能です。山小屋での宿泊やご来光、山頂からの絶景、登頂から下山までの全行程は、体力・精神力・計画性を総合的に試される貴重な経験となります。

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